江國香織 (日本)

小說|新潮社|1994

★★☆




今夜、一体何組の恋人たちが一緒に食事をするんだろう。ぴかぴかに磨かれた窓に部屋の電気がうつっている。紫のおじさんも紺くんの木も、ホモもアル中も、みんなうすっぺらなガラスの中にいた。-23p



私は突然、不安になった。もう二度と睦月は帰ってこないのだ、という気がした。それとも、はじめから睦月なんて存在しなかったのかもしれない。この部屋の異様なあかるさと、環境音楽の病的な透明感。ここは本当らしいものがなんにもない。-43p



おもては白みはじめたあいまいなグレーで、月や星はどんどんうすくなり、弱々しく空にはりついて、街灯がきまり悪そうに光を放っている。早朝のドライブは、学生時代を思いださせる。僕は毎晩のように紺の部屋ですごし、世の人々が眠っているうちに帰宅した。ところどころにある、非常電話の緑色の看板、出口を示す矢印。こうやって走っていると、あの頃にもどったような気持ちになる。-98p



たまらなかったのは睦月と寝られないことじゃなく、平然とこんなにやさしくできる睦月。水を抱く気持ちっていうのはセックスのない淋しさじゃなく、それをお互いにコンプレックにして気を使いあっていることの窮屈。-188p



遠くを電車が走るのが見え、規則正しくならんだ、窓のあかりが横にまっすぐ流れていく。あの中に人が乗っているなんて嘘みたいだ、と思った。闇に星がちらばっている絵、か。睦月の人生の中で、私はどうしたって紺くんにおいつけない。-191p


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MYOYOUN SKIN